伝統工芸サポーターの有賀さんと、北品川の古民家イタリアン【居残り 連】
品川にゆかりのあるゲストをお招きしながら、地元飲食店の魅力を伝える“Re-FRESH”。今回は、北品川の“居残り 連(れん)”にて、伝統工芸サポーターとして活動する有賀 瞳さんにお話を聞きました。
伝統工芸の工房や職人のサポートにフリーランスとして携わる有賀さんは、2024年9月5日(木)から29日(日)まで品川インターシティで開催される日本文化体験イベント“にほんの夏フェス”にて、日本を代表する伝統工芸のひとつである“輪島塗”の展示企画をプロデュースします。
輪島塗の生産地・石川県輪島市を含む能登地域が、今年1月の令和6年能登半島地震で大損害を受けたことは記憶に新しく、その復興を気にかけている Shinagawa people も多いことと思います。
“居残り 連”のアンティークな雰囲気の中、シェフ特製のイタリアンをいただきながら、有賀さんが自身の目で見て、感じてきた、輪島塗の魅力と現在、そしてこれからを聞きました。
今回の舞台“居残り 連”
京急線 北品川駅から徒歩4分。“しながわ百景”のひとつとして知られる“品川浦と船だまり”手前の交差点に建つ、緑青色の建物が今回の舞台“居残り 連”です。
銅板葺きの外壁が特徴のこの古民家は、品川宿が舞台の江戸落語“居残り佐平次”に登場する鰻屋“荒井家”の跡地。2002年に荒井家が閉店した後も建物は大切に保存され、洋風居酒屋としてリニューアルオープンし、2017年に現在のオーナーシェフが借り受けました。
オーナーの話によると、詳細な築年数は不明であるものの、建築方法の特徴から大正後期から昭和初期頃のものと考えられているとのこと。店内は1階がカウンター席、2階がテーブル席になっていて、板張りの床や低めの梁などが残された内装に、日本家屋の趣を感じます。
ゲストの有賀さんも、“居残り 連”の雰囲気を気に入ったようです。
有賀さん:
“居残り 連”には初めて来ました。この昔ながらの雰囲気の中で本格イタリアンを楽しめるとは、とてもステキなお店ですね。
料理は上質なお肉と新鮮な魚介類にこだわり、ランチはパスタやフライなどの5種前後の日替わりメニュー、ディナーは家庭的なイタリア料理をアラカルトとコースで提供しています。また、日本ワインの取り揃えの豊富さも特徴で、白・赤それぞれ15種類前後のほか、スパークリングやブランデータイプなど、シェフが自らワイナリーに足を運んで選び抜いた多彩な味を楽しめます。
今回は有賀さんのお好みに合わせて、アラカルトメニューから“お豆のサラダ”、“生水蛸のアヒージョ”、“酒盗カルボナーラ”の3品をオーダーしました。
有賀さん:
どのお料理も本格的なお味ですね。酒盗とカルボナーラの組み合わせは意外で面白いですね。塩味は控えめで独特の甘みも感じられ、パスタによく合っていると思います!
伝統工芸の現場で知った、ものづくりの美しさ
有賀さんは、美大を卒業後、日本の伝統産業のプロデュースを行う株式会社丸若屋に入社。プロジェクトの進行管理や、工房とクライアントとの連絡・調整などを行う中で、次第に工房や職人とのネットワークがつくられていったことが、今回の“にほんの夏フェス”での展示企画にもつながっているそうです。
有賀さん:
伝統工芸には、大学在学中に興味を持ちはじめました。「職人たちがより製作に集中できるように、環境作りや営業、発信といった製作以外の部分をサポートするような仕事をしたい」と思い、出会ったのが丸若屋で、入社後は本当に理想的なお仕事をさせていただきました。昨年丸若屋を退職してフリーランスになり、現在はさらにもう一歩現場に入り込んでサポートをしています。
有賀さん:
伝統工芸の作り手の方々は、本当に誠実に、素晴らしいものづくりをされています。たとえば、いい音楽を聴いていると、そのメロディーにハッと心が動かされる瞬間がありますよね。私が伝統工芸の製作現場で感じている感情もそれと似ていて、職人の手仕事を拝見したり、仕上がった製品を使ったりする度に、毎回その美しさに見とれて、感動しています。
私にとってそれは生きる上でのモチベーションで、だからこそ、伝統工芸を途絶えさせたくないと強く思っています。
苦境に立つ輪島塗の現在と、これから
先日、有賀さんは改めて輪島を訪ね、現在の状況や工房の想いを取材してきたそうです。発災直後の報道では、輪島市内の輪島塗関連事業所の大半が被災したと伝えられていましたが、それから半年が経過した現在は、どのような状況になっているのでしょうか。
有賀さん:
工房の稼働状況はごく少数と聞いています。私が訪ねた2024年8月頃でも、道路はまだガタガタで、至る所に倒壊した建物が残されている状況でもあり、本当に心が痛みました。
有賀さん:
しかし、復興は着実に進んでいます。私がお世話になっている工房“輪島キリモト”では、元日の地震によりスタッフ全員が被災し、倉庫は半壊、工房や木工機械も修理が必要な状態になりましたが、5月から県外での催事に出展することができ、現在は破損した製品の修復や、新しい木地の製作が始まっています。
また、輪島キリモトの工房に隣接する土地には、9月中旬に輪島市主導の仮設工房30棟が完成予定です。これが完成すると、輪島各地の工房や職人が寄り集まって仕事をすることになります。事業者同士の助け合いや連携も行いやすい環境になるので、そこから新しい取り組みや技術が生まれるかもしれません。
“日本の夏フェス 2024”の見どころは?
有賀さんが現地で見聞きした現状をShinagawa Peopleも体感できる“にほんの夏フェス 2024”は、2024年9月5日(木)より品川インターシティ・品川グランドコモンズにて開催されます。
昨年に続き2回目の開催となる本イベントでは、伝統芸能のステージパフォーマンスや、和文化を体験できるワークショップ、老舗酒販店による“日本酒ブース Feat.かがたや酒店”、様々な大人気クラフトビールが味わえる“大江戸ビール祭り”など、多彩なコンテンツが展開されます。
有賀さんがプロデュースする“Pop up Exhibition 輪島塗”は、品川インターシティS&R棟B1階アトリウムにて、会期中を通してご覧いただけます。
有賀さん:
今回の“にほんの夏フェス”では、輪島塗の製造工程や技法のパネル展示と、製品の現物展示、そして、輪島塗の復興状況をお伝えする予定です。来場する方の中には、おそらく伝統工芸に馴染みが少ない方も多いと思いますが、そのような方々にこそ輪島塗の魅力を知っていただき、興味を持っていただきたいです。
△輪島キリモトのインスタグラムより、被災前の工房の様子(2023/7/14)
有賀さん:
企画する上で特に意識しているのは、私と同世代の20〜30代の方々です。プラスチック製品に囲まれて育った私たちの世代は、物を“直しながら使う”とか“長持ちさせる”といった意識が薄いかもしれません。ですが、一度“いいもの”を使うことで、その肌触りや使い心地が大量生産品とは全く違うことに気づけば、愛着が湧いて、大切に使い続けたいと思うはずです。
大きな地震があったことで、現在はたくさんの方々が輪島塗を心配して、輪島塗に関心を持っていると思います。この展示が輪島塗との出会いになる方もいるかもしれません。今改めて輪島塗の魅力を発信することで、皆様に「輪島塗ってすごくいいね!」と感じていただき、応援していただけたらうれしいです。
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有賀さんが伝統工芸を好きになった理由は、伝統工芸を“美しい”と感じるから。それは外見的な“美しさ”だけでなく、木や土や植物といった自然の素材を用い、その特性を大切に活かそうとする職人たちの精神性までをも含んだ“美しさ”なのだといいます。
“にほんの夏フェス”会期中は、有賀さんがプロデュースする“Pop up Exhibition 輪島塗”にもぜひお立ち寄りいただき、大災害から立ち上がろうとする輪島の人々や、輪島塗の技術、そしてその“美しさ”について、ゆっくりと思いを馳せてみてくださいね。
それでは次回の記事もお楽しみに。
【店舗情報】居残り 連
住所|東京都品川区北品川1-22-4
TEL|03-3450-5660
MAP|https://maps.app.goo.gl/BJ6tUVQmhWZ3yppP8
HP|http://www.ren-shinagawa.com/