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もうすぐ100歳!品川浦の古民家リノベカフェ誕生秘話をスパイス感たっぷりのタイランチとともに。【タイごはんPHAIROT/北品川】

品川駅港南口、ビルに挟まれた広大な緑地帯“セントラルガーデン”を南へ通り抜け、品川浦船溜りを目指して進むと、2階建ての古民家群が現れます。

品川駅から徒歩10分ほどの距離にあるここは、1988年に品川区民により選定された“しながわ百景”のひとつ、“北品川の古い民家の家並み”があった場所。北品川のシンボルとして愛されつつも家屋数は時代と共に減ってしまいましたが、現在まで残る古民家群が今回の舞台、“SHINAGAWA1930”です。
 
“SHINAGAWA1930”は5棟の古民家からなる施設。
玄関の引き戸や窓ガラスには確かに昭和の面影が。古いものの価値を活かして修繕する、“リノベーション”が施されているとわかります。

最も手前の古民家は、“ソーシャルカフェPORTO”。ランチタイムには、曜日替わりで複数の店舗が料理を提供しています。

今注目のリノベ古民家に、個性的な日替わりメニュー。本日は、こちらのPORTOを舞台に“SHINAGAWA1930” のキーパーソンである、株式会社Rバンクの清水麻里さんにこの“場”がどの様に生まれたのかを伺います。

Rバンクと“SHINAGAWA1930”プロジェクト


清水さんと古民家群との出会いは、2018年。
京急電鉄が所有する物件の有効活用をRバンクが担う事になった事が始まりでした。

清水さん:
“Rバンク”は空き家や古くなった建物等を再生することによる“新しい住まい創造”をメインにしている会社です。リノベーションにあたっては、デザイン面はもちろん、建物を使う方々のコミュニティ形成のアシストまで行うことで価値を提供できるよう取り組んでいます。

私自身、Rバンクを就職先として決めた理由は、採用募集に記載されていた“管理運営なくして企画なし”というキャッチフレーズでした。前職ではまちづくりコンサルを行っており、施設運営にも関わりましたが、コンサルの場合は3年ほどで施設との関係が終わってしまいます。
Rバンクは、日々の建物管理により得た知見を運営のブラッシュアップに活かせる環境が整っており、より魅力的な施設を創り出せる所が特徴です。

SHINAGAWA1930誕生ストーリーを生き生きと楽しそうに語る清水さん。
「ミリ単位で物事を考える建築士には向いてなかった(笑)」と、
進路変更の裏話も教えてくれました。

2018年にRバンクが京急グループの一員になってからは、京急沿線の魅力作りのお手伝いもしています。この古民家群の企画も地域の魅力づくりの一環として京急電鉄から相談を受けたのが始まりです。京急電鉄からは、「周辺地域の人々や外国人観光客の交流拠点をつくりたい」「賑わいを創出して沿線の活性化を図りたい」などのアイデアを頂きました。
 
当初は、“江戸に入る前の第一の宿場町”という品川の歴史的な背景も意識して、地域の方とインバウンドとがつながる“グローバル交流拠点”という案を進めていました。近隣住民の方とも何度も話し合いをしながら、プランをブラッシュアップし、無事に着工というタイミングで世界的な新型コロナの感染拡大が始まってしまいました。
コンセプトとして掲げていた“グローバルな交流”の実現が難しくなる一方で、着工した以上は工事を止められません。そこで、建物のリノベーションは活かしながらも用途を考え直す大幅なプラン変更を行いながら、必然的に改めてのテナント募集と工事を同時で進める事となりました。

クラファンにも初挑戦!多くの人の手で作り上げた“SHINAGAWA1930”


清水さんが紆余曲折を経て場を創り上げた“SHINAGAWA1930”にて本日お店を開いているのは、 “PHAIROT(パイロット)”。

ペルーで日本料理店を営んでいたというオモシロ経歴を持つ店主が作るカオソイ(1,000円)は、辛みとココナッツのコクが癖になる刺激的な一品。麺は中華麺を使用しており、タイの漬物などの具材もたっぷり。食後には甘さが癖になるタイアイスコーヒーもお忘れなく!もちろん、清水さんもよくお店にはいらっしゃるそうです。

清水さん:
私、タイ料理好きなんです!木曜日に提供している“ぶっかけプレート”もおすすめです。ボリュームがあるので、午後の仕事に向けてお腹を満たしたい方にはぜひ試していただきたいです。

コロナ禍による想定外の出来事も乗り越えて誕生した “SHINAGAWA1930” 。その裏にはプロジェクトを成功へ導くための工夫がありました。

清水さん:
私が初めて建物を見た際は、古民家と覚悟はしていたものの保存状況に驚きました。残置物が多く、雨漏りの形跡が見られる物件もありました。「本当にリノベーションできるのだろうか」と不安になりましたが、躯体自体の傷みがないことが確認でき、ホッとしました。
その後、残置物を全て撤去し、室内が一気に明るくなった所でモチベーションが上がってきました。物で埋め尽くされていた場所に風が通ったことで、とても良い“気”が流れ出したのだと思います。

PORTO店内は3面採光。この日も大きな窓から心地よい風が流れていました。

“SHINAGAWA1930”の特徴は、床やキッチン等の一部を除いた内装はDIYで作っている店舗が多いことです。地域の方々と共に、自分の手で創り上げることで、建物に対しての愛着を持って頂く効果も期待していました。ワークショップを開催し、専門家の方からのレクチャーを受けながら漆喰壁を塗っていますが、とても味が出ていい雰囲気に仕上がっていると思います。

カラーサンドがレジンに埋め込まれた手作りのカウンター、
元の間取りの面影を伝える柱や梁。
ちなみに、漆喰壁を塗るDIYワークショップにはRe-FRESH編集部員も参加していました。

資金集めの手法として、クラウドファンディングにも挑戦しました。資金集めと言いましたが、主目的は広報です。

“地域の交流拠点”というコンセプトを掲げていたので、早い段階から地域の方にこの場所を開いていきたいという考えがありました。クラウドファンディングによって“SHINAGAWA1930”との接点を持つことで、リノベーション完成前にも完成後にもこの地に足を運んでいただく事ができ、結果的に108名の方に支援を頂きました。こういった取り組みも“地域の交流拠点”につながっていったと思います。

こちらが実際のクラウドファンディングページ。
現在もCAMPFIREで公開されています。

コンセプトを見失わなかったからこそ


当初のコンセプトを見直しながら“地域密着型の施設”としてオープンした“SHINAGAWA1930”。企画が変わる中で、当初のコンセプトはどのように活かされているのでしょうか。

清水さん:
2020年の着工後に計画変更を行ったので、2021年1月のオープンまでに急ピッチで施設を利用していただくパートナーを探す必要がありました。
オープン当初は、計画変更前からの運営パートナーである“ソーシャルカフェPORTO”さん1店舗のみの営業でしたが、その後、“いにしえ酒店”(古酒・熟成酒専門の酒屋)さん、“MamaPlus Cafe”(子連れコワーキングスペース兼カフェ)さん、“株式会社 MAKE HOUSE”(木造建築の設計事務所)さんが入居してくださり、段々と賑わいが出てきたと感じています。
 
PORTOさんは、もともと別の場所で“ソーシャルバー”という日替わり店長のバーを運営しており、同様の企画を“SHINAGAWA1930”でも行う事が決まっていました。一方で、日替わりバーの店長さんは昼間は別の仕事をしている方が大半なので、昼の時間に施設が使われないことになってしまいます。そこで、“自分の店を持ちたい方のチャレンジ店舗”として考えたランチ業態がこのカフェです。

結果として、週3回ここで営業していた スリランカカレーのお店、“カレーと紅茶 ミカサ”さんが、今年の6月から北品川商店街に店舗を開店することになりました。ミカサさんの目標とPORTOさんのコンセプトが形になっただけでなく、私たちが企画当初に思い描いていた “飲食店を新規出店する方をサポートするテストキッチン”というストーリーも、実現したと感じています。

月・火・水曜日は“ミカサ”、木・金曜日は“PHAIROT”、
土曜日は“やさしい発酵食堂”など、日替わりでいろいろな店の味を楽しめます。
(営業店舗は2023年4月現在)
畳敷きにちゃぶ台・座布団もあるPORTO2階は、シェアスペースとして利用可能。

コンセプトの実現という面では、 MamaPlus Cafe さんでもうれしい計画があります。近々、ネイティブの英語スピーカーを招いてお子様向けの英語教室を始めると聞いています。 “海外の方との交流”もついに実現するかもしれません。

PORTOの2階はシェアスペースとして展開しており、地域の方が主催して朝ヨガ教室等を開催しています。簡単にイベントが出来るスペースがあることにより、街での取り組みの幅が広がり、そこに住む・働く方々の体験が豊かになっていることを実感しています。

常連さんの中にはまちづくりに関心のある方も多くいらっしゃいます。
「ここに来たらおもしろい人がいる」「新たな出会いや情報がある場所に行きたい」と思う方が、この場所を気に入ってくれているのではないでしょうか。

“築100年”への願い


上の写真は、品川浦船溜りから見える風景。 手前から、船溜り、 古民家群、マンション群、高層ビル群の順に並び、タイミングが良ければ羽田空港に向かう飛行機の姿も見られます。江戸・昭和・平成・令和の時代の移り変わりを一望できるこの場所は、清水さんのお気に入りスポットなのだそうです。
空襲から逃れ、住み続けた人がいて、しながわ百景として愛され、再び地域のシンボルとして活躍の機会を得た築93年の古民家群。数々の住人や関係者によりつながれてきたバトンは、これからどこへ行くのでしょうか。清水さんに、“SHINAGAWA1930” のこれからを聞いてみました。

清水さん:
コロナ禍でのオープン後は、テナントの皆さんとも話し合いながら、施設の視認性を上げる施策や、より使いやすくなるような建物としての調整を進めてきました。

今年はいよいよ次のステップとして、地域の方との交流を目的としたイベントを開催していきたいと考えています。私個人としてはクラウドファンディングのサンクスパーティーや、地域創生関連のイベントを開催したいです。
また、この3年間に縮小や自粛を強いられてきたお祭りや商店街のイベントにも再開の兆しが見えてきたので、今後はより地域の取り組みとの連携も強めてきたいと思っています。

そして、この建物に“築100年”を迎えてもらいたいとひそかに願っています。

品川浦のほとりで、時が止まっていた古民家群は、Rバンクのリノベーションにより、周辺の空気も生まれ変わらせました。

様々な困難を乗り越えてきた清水さんの奮闘を伺うと、 「建てた後まで見届けたい」という清水さんの想いの成就を願わずにはいられません。

清水さん、ありがとうございました!

この場所は港南口のオフィス街からもすぐの距離。お昼休みや週末にぜひ一度“SHINAGAWA1930” を訪ねてみてください。 “PORTO”でランチをするのも良し、“いにしえ酒店”でこだわり古酒を試飲するのも良し、“MamaPlus Café”でお子様と一緒にリモートワークをするのも良し。ついでに品川浦や品川宿散歩を楽しむのも有意義でしょう。

あなたのライフスタイルに合わせて、古くて新しい品川の楽しみ方を見つけてくださいね。

それでは、次回の記事もお楽しみに。

【店舗情報】ソーシャルカフェ「PORTO」


住所|東京都品川区北品川1-21-10 SHINAGAWA1930
MAP|https://goo.gl/maps/vH15UwqDzkBKgvAA9
HP|https://shinagawa1930.jp/