海洋事業を幅広く展開する“ジール”社長の平野さんと、水辺で味わう地中海ディナー【キャプテンズワーフ】
品川にゆかりのあるゲストをお招きしながら、地元飲食店の魅力を伝える“Re-FRESH”。今回は、天王洲のレストラン“CAPTAIN’S WHARF”(キャプテンズワーフ)にて、株式会社ジール 代表取締役の平野拓身さんにお話を聞きました。
株式会社ジールは、天王洲運河に自社桟橋“天王洲ヤマツピア”を構え、東京港湾エリアを中心にクルーズ事業などを展開する企業です。桟橋の目の前でジールが運営する“CAPTAIN’S WHARF”は、生産者直送の食材を使用した地中海料理を提供するレストラン。ドラマのロケ地として度々使用されているため、すでにご存じの Shinagawa people は多いことと思います。
天王洲運河を臨む抜群のロケーションで、平野さんのこれまでの歩みや、東京の水辺が持つ課題と可能性をお聞きするとともに、この夏おすすめのクルーズプランもご紹介いただきました。“CAPTAIN’S WHARF”の彩り豊かな地中海料理とともにお楽しみください。
今回の舞台“CAPTAIN’S WHARF”
今回の舞台は、天王洲運河沿いに建つ“CAPTAIN’S WHARF”です。
新東海橋のたもとにあるレトロな茶色い外観の建物に入ると、天井が高くゆったりとした開放感のある空間が広がります。優しい印象の白壁や木の床、パリッと整えられたテーブルセットなど、店内の雰囲気全体から、温かなおもてなしの心が伝わってきます。
本日のゲスト、株式会社ジール 代表取締役の平野拓身さんとの待ち合わせは夕刻。空はまだ明るく、東向きの大きな窓からジールの自社桟橋“天王洲ヤマツピア”越しに、色鮮やかな青空を臨むことができました。
平野さん:
この店は、“地中海地方の小さな港町にあるお店”をコンセプトとして、2011年にオープンしました。
料理はイタリアンをベースに、地中海沿岸の国や日本の調理法の“いいとこ取り”で、船の気軽さや自由さを表現しています。できあいのものは一切使わず、すべて店内で手作り。食材にもこだわっていて、私が仕事を通じて出会った日本各地の信頼できる生産者から直接仕入れもしています。
平野さん:
一番のおすすめは、うちのゼネラルマネージャーが発案した“旅するパスタ”シリーズです。日本各地の食材や調理技法を取り入れて作るパスタやリゾットで、2ヶ月ごとにテーマとする地域を変えて提供しています。現在は石川編をやっていて、6月下旬から沖縄×シチリア編に変わる予定です。
平野さん:
食材や調理にこだわると手間は掛かりますが、美味しいだけでなく健康にもよい料理を提供したいと考えています。身体をつくる食事を提供するサービスだからこそ、責任感を持ってやっています。
「船で人を喜ばせたい!」
情熱だけを胸に29歳で独立・創業
“CAPTAIN’S WHARF”のこだわりを伺えた所で、株式会社ジールについてお聞きしていきましょう。
今でこそ天王洲を語る上で欠かせない企業となったジールですが、創業当初はゼロからのスタート。お金も船もノウハウもない状態から、情熱(英語で、“zeal”)だけを胸に突き進んできたと平野さんは言います。そんな平野さんのエネルギーの源泉は、いったいどこにあるのでしょうか。
平野さん:
僕は茅ヶ崎で育って、子供の頃は釣りに没頭し、21歳でスキューバダイビングを始めました。すこし前までは水中カメラマンとしても活動しており、日本各地の海に2000本以上は潜りましたね。
しかし、始めから海の仕事をしていたわけではなく、最初の仕事はトラック運転手でした。その後は地元で7年ほど営業の仕事などを行っていましたが、次第に海に関係する仕事への想いが強くなり、船舶の輸入販売やメンテナンスを行う会社に転職しました。
平野さん:
ところが、ほどなくしてバブルが崩壊し、船の管理を任せてもらっていたお客さんも船に乗る暇がなくなってしまいました。しかし船は動かさないと故障するリスクが高まります。故障のリスクを減らす施策として、僕がクルージングを企画・提案をして、会社に認められて事業が始まりました。
初めてクルージングをご利用いただいたお客さんのことは、今でもよく覚えていますよ。東京の企業の方々だったのですが、僕の想像の何百倍も喜んでいただき、「こんなに喜んでもらえる仕事があったのか!」と衝撃を受けました。それがきっかけで、「“船を使って楽しむこと”を日本全国に広げたい」という夢を持ち、1993年、29歳の時に独立して、ジールを創業しました。
日本の水辺に賑わいをもたらしたい!
平野さんがジールを立ち上げた1990年代は、東京の観光船を取り巻く環境は現在ほど整備されていませんでした。東京港周辺で民間の観光船が利用できる船着き場は、中央区晴海の朝潮運河船着場のみ。2000年に最寄りの都営大江戸線 勝どき駅が開業するまでは、交通アクセスの不便な立地でした。
その様な状況は、徐々に好転をはじめます。
平野さん:
創業から10年経った頃にようやく自社船を購入できました。しかし停泊場所はなくて、ジプシーのように各地を転々としていました。自社桟橋があればいろいろと便利なのですが、当時の港湾エリアは物流のための利用が主だったので、観光船事業で民間の桟橋をつくるのは不可能だろうと思っていました。
あきらめきれない想いもあったのでダメ元で調べてみたところ、たまたま天王洲エリアが“運河ルネサンス”という規制緩和の第一号地区に指定されていたことがわかりました。そこから東京都と交渉をはじめて、さまざまな荒波を乗り越えて現在の“天王洲ヤマツピア”が誕生しました。
念願の自社船と自社桟橋を手に入れたジールは、まさに魚の水を得たるがごとし。クルーズ、船上ウェディング、水中撮影、海洋教育、海洋散骨、自社桟橋運営、飲食店運営など、多岐にわたる事業を展開して、昨年創業30周年を迎えました。
しかし、平野さんにはまだまだやりたいこと、やらなければならないことがあるようです。そのひとつが、日本の水辺文化の再興です。
平野さん:
江戸時代まで遡れば、川や海は物流や遊びに使う身近な場所で、東京には“水の都”と呼ばれるほどの豊かな水辺文化がありました。しかし、それもいつの間にか衰退してしまい、現在の日本の水辺文化は、欧米と比べると非常に遅れをとっています。
たとえばプレジャーボート(スポーツや娯楽に使われる船舶)なら、海外には全長100フィート(約30.5メートル)以上の船がごまんとあり、船を所有する人がいるのはもちろん、1週間単位で借りて遊ぶという市場も普通にあります。一方、日本ではそのような仕組みは一般的ではありませんし、そもそも遊ぶための船自体が少ないです。
しかし、未来はきっと良くなると信じていますよ。
“運河ルネサンス”を機に、東京都は物流だけでなく観光・レジャーなどへも東京港湾の門戸を開き、港区や品川区も、現在は水辺の利活用に関して前向きな姿勢です。水質も改善されてきていて、魚や水鳥などの生き物も豊富で、日本の他地域へのアクセスもいい。ポテンシャルはとても高いのです。
海に恵まれている島国なのだから、遊びやライフワークに水辺を活かしたいですよね。僕の根底にはそんな想いがずっとあります。江戸時代のような、水辺に大勢の人が集まる賑やかな文化をまた築けるように、これからも活動していきたいと思います。
この夏おすすめの東京クルージングプランは?
最後に、この夏おすすめのクルージングプランを平野さんにご紹介いただきました!
平野さん:
夏のおすすめナンバーワンは、やはり花火クルーズですね。隅田川花火大会や足立区花火大会、みなとみらいスマートフェスなどを、船上の特等席からゆったりと観覧できます。
お子さん向けのおすすめは、“竹芝シースクール”です。
こちらは竹芝発着で、東京湾の自然環境や生活との繋がりを学ぶ、社会科学習のようなクルーズです。魚やプランクトン、水鳥などの水辺の生き物を学べるプランや、東京港に1つだけある“イグアナ”と呼ばれるガントリークレーンを臨めるプラン、海洋プラスチックを採取して顕微鏡でのぞくプランなど、時期によってさまざまなプログラムを実施しています。
※最新の開催情報は、こちらのページでご確認いただけます。
平野さん:
クルーズプランは他にもたくさんありますし、これからも新しく作っていきますよ。当社は楽しいことを考えるのが得意ですからね。
* * *
約20年前に平野さんが初めて購入した“ジーフリート号”は、95人乗りで、総トン数は51トン、全長は28メートルの大型パーティークルーザー。現在も現役で、天王洲ヤマツピアではその停泊中の姿を見ることができます。
ジールのストーリーを知ってからこの光景を眺めると、平野さんがこれまで味わってきたワクワクやドキドキの片鱗をお裾分けいただいたような感覚を覚えます。あなたも天王洲へお越しの際には新東海橋まで足を伸ばして、この景色を眺めてみてください。そして、“CAPTAIN’S WHARF”でのお食事もお楽しみください。
それでは次回の記事もお楽しみに。
【店舗情報】CAPTAIN’S WHARF
住所|東京都品川区東品川1丁目39-21
TEL|03-6433-0818
MAP|https://maps.app.goo.gl/jBfX2dVoZkJL6ot76
HP|https://www.captains-wharf.com/